【J.S.バッハ】シンフォニア 各曲の特徴と弾き方は?ピアノ講師が解説|インヴェンションとの違いとは
J.S.バッハ「シンフォニア」。
有名な2声のインヴェンションをやり終えた学習者の多くが、次に挑むことになる難関です。
元々は息子フリーデマンの教育のために書かれた30曲のうちの後半部分で「3声のインヴェンション」とも呼ばれていました。
つまりは2声のインヴェンションより1つ声部が増えている。そのためさらに難しいのです。
本記事はこの難しいシンフォニア全15曲の特徴を解説し、その練習方法を提案するものです。
ご参考になれば幸いです。
シンフォニア全曲の難易度は?おすすめの練習順序はこちら↓
【J.S.バッハ】シンフォニア 全曲の難易度順は?おすすめの練習順序と楽譜を紹介【ピアノ】
目次
シンフォニア 各曲の特徴と弾き方【J.S.バッハ】

J.S.バッハ「シンフォニア(3声のインヴェンション)各曲の特徴と弾き方を解説して参ります。
リンクはYouTubeへ。私が演奏しています。
なお参考とした楽譜は以下の通り。日本語解説の詳しい国産の楽譜を推奨しています。
- J.S.バッハ インヴェンションとシンフォニア/市田義一郎編(全音楽譜出版社)
- J.S. バッハ シンフォニア/園田高弘校訂(春秋社)
- バッハ インヴェンションとシンフォニア/高木幸三校訂・解説(全音楽譜出版社)
- バッハ・インヴェンションとシンフォニア(解説付)(カワイ出版)
当ブログではシンフォニアの楽譜として、インヴェンションとともに市田義一郎編の楽譜をおすすめしています。その理由は以下のとおり。↓
バッハ インヴェンションの楽譜はどれがおすすめ?5冊を厳選!特徴と選び方を解説/一般学習者向け
第1番 BWV 787
シンフォニア第1番 BWV787
ハ長調、4/4拍子。上下行するスケールをモチーフとしたシンプルな主題。
音の流れがゴツゴツしないよう、左右の手でスケールの受け渡しをきれいに繋げるのがキモ。
やや練習曲風味の曲なので普通に弾くとどうしても無味乾燥になりがちです。
上行する時は軽くクレシェンドして勢いを、下行する際はディクレシェンドで沈静を表現してみては?
なお市田版では、6、10小節右手のトリルは和製学上のタブーとされる連続5度進行を避けるため上隣接音ではなく主要音から弾き始めるよう指示が。
ちなみに他の版ではどの先生もあまり気にされていないようです♪(´ε` )
第2番 BWV 788
ハ短調、12/8拍子。哀愁を帯びた流れるようなテーマは「歌う」練習にぴったりです。
この曲ではあまり重々しいのは似合いません。優雅さをまとって端正に弾くのが合いそう。
八分音符のテーマの合間に流れる16分音符のなめらかな受け渡しや長いトリルなど、繊細な曲ならではの注意ポイントがあります。
指使いも工夫が必要で、各社の先生方の提案も色々。個人的には市田版の指使いがお勧めです。
実はこの曲、後半部分に主題がはっきりと再現しません。その点でバッハの教育的作品には珍しく比較的自由に書かれた作品と言えるでしょう。
最終音はピカルディ終止(ピカルディの三度)。ハ長調の明るい響きは希望の光が見えてくるよう。
充分に間をとって効果的に弾きたいものです。
第3番 BWV 789
ニ長調、4/4拍子。上下に行ったり来たりする主題はニ長調らしく可愛らしい雰囲気。三度で動く箇所が多く演奏はなかなか難しいです。
活発にカタカタ弾きたくなりますが高木版には冒頭わざわざgrazioso(優美に)の指示があります。
主題のアーティキュレーションは色々な説がありますが、全部スタッカートするよりは八分音符をノンレガートで弾くのを推奨。多分一番弾きやすいです。
2番と違い厳格なフーガ(主題が各声部に模倣しながら現れるタイプの楽曲)形式になっているので、左右の手での受け渡し部分をはっきり浮き立たせるように弾けると良いです。
速いテンポでテクニカルに弾くことよりも、各声部の絡み合いを楽しむようなつもりで弾いてみましょう♪( ´▽`)
第4番 BWV 790
ニ短調、4/4拍子。重々しく内面的な作品。「あきらめ・悟り」「魂の告白」などと評する編者は多いもの。
テンポが遅いので技術的に特に困難な箇所はありません。
その代わり、バッハらしい悲しみや重荷を表す半音階進行などに意識を向けて表現することが求められます。
主題の6度、7度の八分音符はノンレガート、1小節から現れる低音のモチーフは響きのあるレガートで弾きます。
12小節から、主題と半音階の下行型とが絡み合う聴かせどころ。
ここはぜひ半音階はレガートで強調するように、主題とは別のタッチで弾けると立体感が増します。
21小節、高音部に半音階が出てきます。最後に残るのはdの音のみ。深く沈み込むように余韻をもって終わりましょう。
第5番 BWV 791
変ホ長調、3/4拍子。他の曲と異なり、左手のアルペジオ伴奏の上に右手の二重奏が歌われる「アリア」となっています。
自筆譜には様々な装飾音符が散りばめられており、指示に従って演奏すれば華麗なロココ風の響きを楽しむことが可能。
この曲のキモは装飾音なのですが、やはり骨組みの把握は必要。まずはすべての装飾を省いて練習しましょう。
シンプルながら二重唱の美しさを感じられるようになったら、装飾音で華麗に飾っていきます。
装飾稿は各版少しずつ違いますが、個人的にはカワイ出版の譜例が気に入っています。
第6番 BWV 792
ホ長調、9/8拍子。丘を上下するようなスケール的なテーマですが、1番のような爽快さよりはレガートを基調とした素朴な穏やかさを感じます。
ジーグのように速いテンポで軽やかに弾く解釈もあり得ますが、多くの演奏者はレガートで弾いている模様。
様々な位置から始まるテーマの起点を意識しましょう。タイから始まる箇所もしっかり把握しておくと良いです。
八分音符はできる限り滑らかに、それに対して付点四分音符はテヌート気味にはっきりひくとメリハリが出ます。
34小節の山場に向かって、園田版ではrit.の指示。二つの付点四部休符にもフェルマータが付いていますがややクドイかも‥(^^;
あまりドラマチックにし過ぎない方が曲の雰囲気に合うと思います。
第7番 BWV793
ホ短調、3/4拍子。Andanteの非常に美しい曲で、高木版にはmolt espressivo(極めて表情豊かに)の指示が。
テーマと対旋律が複雑に絡み合いながら3つの声による歌が紡がれてゆきます。
ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロによる弦楽三重奏のように演奏することを意識すると良いでしょう。
バッハ作品にしてはフレーズが長いのが特徴です。またテンポが遅いのでテーマがプツプツ切れた印象になりがちなのが悩ましいところ。
なので市田版では2、6、8、15小節などに「シュライファー(滑走音)」という装飾を付けることを推奨しています。
この曲でのピカルディ終止は様々な解釈が可能。そっと終わるのも良し、力強く盛り上げるのもアリです。工夫してみて下さい。
第8番 BWV794
ヘ長調、4/4拍子。快活で躍動感にあふれた楽しい曲。
ただしテンポが速いにも関わらず装飾が多く、技術的にはかなり難しいです。
16分音符が3声同時に動く箇所もあり、あわてると乱暴な印象になりがち。活発な曲ですがスポーティではなく、あくまでも優雅さを失わない方が素敵です。
どの版でも全部で23回も出てくる主題全てにトリルを付けることが推奨されており、これがかなり大変。
よって、高木版などのAllegroの指示は見なかったことにして(笑)Moderatoくらいの雰囲気で弾くのをおすすめします♪(´ε` )
第9番 BWV795
ヘ短調、4/4拍子。全15曲中最も暗く、厳粛かつ内省的、悲劇的な側面を持つ作品です。
この曲の特徴は以下の3つの主題を持っていること。
①8部音符主体、ドラマチックなメインテーマ
②バッハ特有の、絶望感を伴う重い足取りを表す半音階下行形
③やや軽く、浮遊感のある細かい音型
これら3つの主題が高く低く絡み合いながら、ラストのピカルディ終止まで緊張感を持って紡がれていきます。
わずか35小節の中にこれほどのドラマが表現された作品は数少ないと思われます。
難しいですがぜひトライしてみて下さい。バッハ作品の真髄に触れることができること間違いありません。
第10番 BWV796
ト長調、3/4拍子。スケール主体の爽快感ある明るい曲調。聴きばえのする華やかな作品です。
その分技術的に難しく、エチュードとしても有効。左右の手による受け渡しの練習にもなります。
どうしても忙しい印象になりやすいので、急ぎ過ぎずはっきりと3つの声部の絡みがわかるくらいのテンポで弾くのをおすすめ。
16分音符は流れるように、8分音符はノンレガートで、4分音符はテヌートしてはっきりと響かせると良いです。
26小節からは特に難しく、運指で悩むハズ。カワイ版では複数の指使いを提案していますがかえって決められないかも‥f^_^;
個人的には市田版の運指がおすすめです。
第11番 BWV797
ト短調、3/8拍子。優雅で繊細な舞曲といった趣。短調の曲ではありますが重々しさはなく、女性的な柔らかさや優しさを感じます。
冒頭、右手に示される16分音符と8分音符の短いフレーズがテーマ。
そしてそれが全曲に散りばめられ、その合間を縫って長いフレーズやドラマチックな低音のパッセージも顔を見せます。
3拍目が上行するので、メヌエットをイメージしてゆったりした3拍子で弾くのが合うでしょう。
高木版では「シシリエンヌといった趣」と解説されています。市田版でも主題を「ボートを漕いで前進させるための一櫂一櫂に当たる」という表現が。
舟歌を感じさせるような浮遊感、あるいはふわりとした絹を纏った女性が舞うような、そんなイメージで弾きたいものです。
第12番 BWV798
イ長調、4/4拍子。快活で明るく、颯爽とした曲調。輝かしく、それでいて歌うような滑らかさも感じられます。
8分音符と16分音符による主題は特徴的でかつ聴き映えもするので、シンフォニア全曲中でも人気のある曲の一つです。
音が上下に跳ね回るように動きますが乱暴にならないよう。勇ましさよりはキラキラとしたクリアな響きで演奏できたら素敵。
大切なことは音の粒が揃っていることと各声部が独立して聴こえること。
縦のラインがブレないように確実に打鍵しつつ、主題とともに16分音符が軽やかに動きまわるのが理想です。
なおテンポは速ければ速いほど困難さが増します( ´∀`)ご自身にとって無理のない速さをぜひ工夫してみて下さい。
第13番 BWV799
イ短調、3/8拍子。主題は主音から4度上がって下がるだけであり、極めてシンプル。それでいて叙情的で印象深い美しい曲です。
イ短調という調は深い悲しみを表すことが多いものですが、この曲には嘆きや重々しさのような暗さはなく、雰囲気はむしろエレガント。
大きく横に流れるフレーズを意識して、滑らかに歌って(カンタービレ)弾きたいものです。
技術的に大きな困難さはありませんが、ところどころ現れる32分音符を両手できれいに合わせるのはなかなか難しいはず。バタバタしないよう軽やかに弾ければ最高。
この曲は主題がシンプルなためか、特に市田版では多くの装飾音が提案されています。
うまくいけばバロックらしい優美さが際立ちます。余裕があればぜひトライしてみて下さいね。
第14番 BWV800
変ロ長調、4/4拍子。明るく喜びに満ちた印象ながら、実は緻密に組み立てられた堅牢な建築物のような作品。
シンフォニア全曲中最も難しいとする解説者の先生もいらっしゃる、事実上のラスボスともいえる難曲です。
主題は、市田版と高木版は8分音符をノンレガートに、園田版では全てレガートになっています。
レガートの方が弾きやすいですがここはぜひノンレガートをおすすめしたい。より立体的な響きが楽しめます。
5小節の運指は、市田版では左右で受け渡すことになっていますがコレはあんまりおすすめしません。困難さが増すだけですので(笑)
後半はまさにこの曲の聴かせどころ。主題が左右あちこちに緊張感を放ちつつ展開していきます。
ラストは32分音符のパッセージ付きで堂々と華やかに。バッハ作品の醍醐味をイヤというほど味わえることでしょう(^_−)−☆
第15番 BWV801
ロ短調、9/16拍子。鍵盤楽器の技巧の輝かしさを追求したような華やかさと哀愁とを併せ持つ魅力的な曲です。
この曲は他のシンフォニアと違い、対位法的な手法をわざと避けて演奏面での効果を狙っているかのよう。
それゆえ「シンフォニア中で最も易しい」という評価もあります。私は全くそうは思いませんが(^_^;)
とはいえテクニックさえあればカッコよく弾けてしまうのがこの曲の良いところ。
緻密さとか厳格さとかは散々味わったので、最後くらいは華々しく終わりたい!という人にとっては弾いていて最高に楽しいかもしれません。
なお冒頭の右手には二種類の弾き方が考えられます。高木版では短いスラーを使った弾き方を、カワイ版ではノンレガートを推奨。
一般的にはスラーを用いる人が多いようです。
【J.S.バッハ】シンフォニアとインヴェンションの違い

シンフォニアは3声のインヴェンションとも呼ばれます。では、シンフォニアと2声のインヴェンションとの違いとは?
当然ながら声部の数です。やはり2声と3声の差は大きいもの。
2声ならば左右の手でそれぞれの声部を弾けば良い(それでも難しいのですが‥)。
しかし3声となると、手は二本しかありませんから常にどちらかの手が2つのパートを担当することに。
常時ソプラノを右手、バスを左手で弾きながら、それらに絡み合うアルト(中声部)を両手で受け渡しつつ演奏することになるわけです。
2声のインヴェンションよりも複雑かつ高度な技量が必要なので、学習者にとっては2段階くらい難易度が上がったように感じること必定。
そのためインヴェンションを終えてすぐにシンフォニアに挑戦するよりも、先にフランス組曲を勧める先生もいらっしゃいます。
私のおすすめは、シンフォニアほどには難しくない(それでも難しいのですが)3声の曲に慣れておくこと。
具体的には「J.S.バッハ 小プレリュードと小フーガ」のなかの、3声の曲を中心に練習するのを推奨します。
シンフォニアほど大変でないとはいえ、ポリフォニーの難解さの、その深淵の一部を垣間見ることができるでしょう( ´∀`)
【J.S.バッハ】シンフォニア 各曲の特徴と弾き方 まとめ

J.S.バッハ「シンフォニア」全曲の特徴と弾き方についてお伝えしました。
バッハびのシンフォニアは、15曲全てが異なる特徴を持っています。
どの曲にもそれぞれの魅力があり、一つ一つが異なる世界観を持っています。
三つの声部が語り合いながら物語を紡いでゆく様は、まるで小さな宇宙のよう。
どの曲も易しくはありませんが、ぜひていねいに取り組んでみて下さい。
弾くたびに新しい発見を得て、あなたの音楽はさらなる輝きを手に入れられること間違いなしです。
ピアノの先生マッチングサービスが利用できるようになりました!
簡単な質問に答えると、AIがあなたにぴったりのピアノの先生を5人ほどマッチングしてくれます。↓
ご相談までは無料なので、気軽に入力してみると楽しいですよ!(^○^)





