電子ピアノでも大丈夫?ピアノとの違いはどこにあるのでしょうか
私は、今の仕事を38年も続けていますが、10年くらい前から電子ピアノで学ぶ生徒さんの割合が増えてきたように感じます。
比較的軽く、調律が不要、かつボリュームの調整が容易な電子ピアノは、今や我が国の音楽教育になくてはならない存在に。
特に集合住宅にお住いの方では、今のところ電子ピアノの生徒さんが主流な気がします。
その一方、楽器の購入にあたって電子ピアノかアコースティック(生)のアップライトピアノかで悩む方がいるのも事実。
本記事では、この二つの楽器の違いについて考察してみたいと思います。
✳︎以下、本記事ではアコースティックピアノを「生ピアノ」と表記します。
目次
電子ピアノで本格的なピアノレッスンを受けることが可能かどうか
まずは、自宅の楽器が電子ピアノであっても本格的なピアノレッスンが受けられるかどうかについて考えてみました。
電子ピアノのグレードによっては可能
結論から申しましょう。
私は、電子ピアノでも、趣味として学ぶならある程度のレベルまでは本格的なピアノレッスンを受けることは可能と考えています。
ただしその場合は、楽器の性能をよく調べる必要があります。
電子ピアノはお値段によって性能にわかりやすく差があります。
安価なものは5万円以下から高価なものは50万円近くするものも。
やはり、お値段の高いものはより生ピアノに近い音色やタッチを追求して作られています。
こういったものなら、ある程度までは十分に生ピアノの代用品となりうるでしょう。
特にクラシックピアノのレッスンを希望される場合は、あまりに安価な電子ピアノは避けたほうが無難です。
ピアノの先生方のお考えは
私は、生徒さんのご自宅のピアノが電子ピアノであっても普通に受け入れてきました。
ご自宅の楽器の種類によって指導法を変えたりなどもしていません。
私自身、以前賃貸マンションに住んでいた時、階下の方から音について厳しく注意されたことがあったからです。
ピアノを弾く時間などについての決まりをきちんと守って弾いていたのですが、理解して頂けず辛い思いをしました。
そんな経験から、集合住宅で生ピアノを置くことの難しさは骨身にしみていたのです。
友人知人のピアノの先生仲間も同じようにされている方が多いです。
特に住宅事情の厳しい首都圏では、こういった先生が多数派ではないかと思われます。
集合住宅にお住いの生徒さんにとって、電子ピアノは現実的な選択なのです。
ただ、ピアノの先生方の中には違う考えをお持ちの方も。
「電子ピアノはピアノではない」「電子ピアノで練習する生徒さんは採らない」と公言する先生は確かにいらっしゃいます。
また、私の知り合いの先生は、電子ピアノの生徒さんには『それなりのレベルのレッスンになります』とはっきりお伝えしているそうです。
上記の先生方は決して、ピアノを習うためのハードルをわざと上げていらっしゃる訳ではありません。
それぞれの生徒さんに対して、どのようにレッスンするかといった基準が違うのです。
私を含む多くの先生方は、生徒さんのご都合に寄り添ったレッスンを行っています。
なぜなら、ほとんどの生徒さんは趣味としてピアノを習っているからです。
それに対して、電子ピアノに対して厳しめのスタンスの先生方は、コンクールの入選や上位の音楽大学、高校への合格を目指してレッスンをされているケースが多いように感じます。
そのようなレベルの「本格的なレッスン」には、やはり電子ピアノでは不足と捉えておられるのだと思います。
以下、どこがどのように違うのかを考察して参ります。
電子ピアノと生ピアノはどこがどのように違うのか
まずは、電子ピアノの良い点を挙げてみましょう。
電子ピアノの長所
重量が軽いこと
生のアップライトピアノの重さは、機種にもよりますが約200kg。
グランドピアノですと一般的な家庭用の我が家のもので270kgあります。
引越しの時は専門の業者に依頼する必要があります。
それに対して、電子ピアノの重さはやはり機種によりますが30〜60kg。
通常の引越し業者でも扱うことができます。
音量調節が容易
電子ピアノは音量の調節は思いのままです。
生ピアノでは基本的に音量調節はできません。
アップライトピアノには弱音ペダルが備えられていますが、完全に音を消すことはできません。
(消音機能を付ければ夜間でも練習できます。)
調律の必要なし
生ピアノでは、年に1回〜2回の定期的な調律が必要。
費用は1〜2万円程度。毎年行う必要があります。
電子ピアノならこの必要はありません。
価格が比較的安い
アップライトピアノの相場は新品で50万円以上。
電子ピアノでは、ある程度の期間ピアノレッスンに使えるグレードの機種では20〜30万円くらいで入手できる印象です。
各メーカーがしのぎを削っていますので、以前より価格に比した性能は上がっています。
「‥‥こうしてみると、電子ピアノの方が全てにおいて優ってますよね。
高名な先生方が生ピアノにこだわる理由っていったい何ですか?」
という疑問が湧いてきますよね。当然です。
どれほど高性能な電子ピアノであっても、どうしても苦手なことや不可能なことがあるのです。
電子ピアノが苦手なこと・不可能なこと
素早い同音連打
同音連打とは、素早く指を変えながら同じ音を「ドドドドドドドド‥」のように出し続けることです。
電子ピアノはこの同音連打が苦手です。
グランドピアノ> アップライトピアノ> 電子ピアノの順に得意不得意がはっきり分かれます。
決して電子ピアノでは同音連打ができないわけではありません。
ただ、物理的に音を出す生ピアノと、センサーとスピーカーを使って音を作り出す電子ピアノでは、やはり同じようなわけにはいきません。
生ピアノに比べると、どうしても鍵盤の戻りが遅いので、1秒間に出せる音の数は生ピアノに比べると少なくなります。
例えるなら、グランドピアノでは1秒間に12回打鍵できるところを、アップライトピアノでは1秒間に10回程度、電子ピアノですとそれより少なくなります。
ピアニストの技量によっても変わってきますので一概には言えませんが、注意すべきポイントではあります。
打鍵の仕方による音色の無限のコントロール
打鍵の強さ、勢い、微妙な離健(鍵盤から指が離れること)のタイミング操作により、生ピアノは無数の音色を生み出すことが可能です。
それは一人一人の奏者によって違いますし、同じ奏者でも毎回少しずつ違っていて、全く同じように弾くことはできません。
無限の可能性があるのです。
また、同じ機種であっても一台一台少しずつ差があり、世界中に同じ楽器は2つ存在しないといっても過言ではありません。
使い込んでいくうちに個性のようなものが現れてきます。
電子ピアノの場合は、音はサンプリングしたものをスピーカーから出しています。
そのため、比較的簡単に理想的な音色が得られるという利点はあります。
ただそれが、他の楽器、特に生ピアノに向かった時に実力として発揮できるかは別問題です。
自然な音の響きとその共鳴
生ピアノは、弦とハンマーがぶつかることで物理的に音が出ています。
その振動を、木製の板(響板)に共鳴させ、楽器全体に響かせることで豊かな音が生み出されます。
演奏者の技量が上がってくると、この「響き」をうまく利用することで演奏に幅が出てきます。
・フレーズ(音のつながり)の終わりに手首をうまく使うことによって微妙なニュアンスの違いを表現する。
以下の記事を参照して下さい。↓
「あなたのピアノには音楽性がない」と言われたら 〜2つの処方箋〜
・指が鍵盤を離れた後に残る「残響」をダンパーペダルによって増幅させ、音がつながっているかのように響かせる。
生ピアノは、演奏困難な箇所でも、響きとペダルによってレガートに聴こえるように演出することが可能です。
電気で音を生み出す電子ピアノでは、響きの単調さはやはり否めません。
もうひとつ、電子ピアノ最大の弱点は「楽器が育たない」ことです。
生のピアノであれば、弾き込むほどに味が出て、世界に一台だけの独特の響きを持つようになります。
個人のものでも、学校やストリートに置かれたピアノであっても、その歴史を物語るような特有の音色を持つピアノに変貌していくのです。
これこそがピアノという楽器の本来の力であり、電子ピアノには決して真似のできない部分といえるでしょう。
高度な表現が必要になる中〜上級者レベルでは生ピアノに軍配
このように、高度な表現が必要になるレベルになりますと、それまでとは違った景色が見えて参ります。
電子ピアノでは、この「音色のコントロール」「残響」の機能がどうしても薄く、音質もサンプルに頼るために単調になるきらいがあります。
曲の難易度が上がるほどに、楽器の機能が演奏者の技量に追いつかないということが起こってくるのです。
電子ピアノと生ピアノ どちらを選ぶべきか?
私なりの結論を申し上げます。
趣味としてピアノを学ぶ、入門から初級〜中級レベルの演奏者なら電子ピアノで問題なし。
コンクールでの上位入賞や上位音楽大学などへの合格を目指すレベルなら生ピアノで学ぶことが必要。
といって差し支えないと考えます。
大切なのは、一人一人の生徒さんが、ピアノを学ぶということに何を求めるか、ということ。
あくまで趣味として、ピアノを弾くことの楽しさを追求するのか、
この楽器の無限の可能性に挑戦すべく本気で向き合うのか。
全てのピアノを学ぶ人々が、ご自分にあったやり方で長くピアノを弾くことを楽しんで頂くのが一番だと私は思います。
100人の学習者がいれば100通りの楽しみ方が、
1000人のピアノ愛好家がいれば1000通りの関わり方が存在するのです。
電子ピアノと生ピアノ。
どちらを選ばれたとしても、それぞれにふさわしいやり方でこの素晴らしい楽器とともに歩んでいって下さるのなら、ピアノ教師としてはとても嬉しいことです。
ピアノを愛する方々が、ご自分に合った楽器と出会って、末長く楽しんで頂けるように祈っています。
お読み頂いてありがとうございます。
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