5分で理解する、ピアノを弾くための音楽史・4つの時代区分
ピアノを習い始めて数年が経ち、ある程度ピアノに慣れてきたあなたへ。
ただ音符をなぞるのではなく、さらにワンランク上のレベルの演奏をしてみたいと思いませんか?
楽譜を正確に読み取り、テクニックを磨いて正確に演奏するのは、それだけでも素晴らしいことです。
さらに、あとひと工夫。
バッハやモーツァルト、ベートーヴェン、ショパンらが暮らしていた時代の、ヨーロッパの歴史や社会情勢について学んでいくと、曲への理解が深まります。
西洋音楽の歴史は、17〜19世紀のヨーロッパの社会情勢と密接な関係があります。
西洋音楽史のうち、ピアノを学ぶため必要な4つの時代区分について、簡単におさらいできるようにざっくりとお伝えします。
4期の理解のすすめ
ピアノ教育界では、この4つの時代区分のことを「4期(よんき)」と称します。
ピアノ(鍵盤楽器)の歴史は、主に
・バロック
・古典派
・ロマン派
・近、現代
の4つの時期に分けて考えられているためです。
音楽や美術、文学のような芸術作品は、その時その時代の社会情勢に大きく影響を受けます。
ひとつの曲を理解しようとする時、それが作曲された当時の歴史を知ることは大いに演奏の助けになることでしょう。
ピアノコンクールなどでは、この4期それぞれの時代ごとの弾きわけが重要な課題となっています。
それぞれの時代に合った演奏のスタイルや解釈の仕方によって評価されるということですね。
教える立場の私としても、ある程度の演奏能力を得た生徒さんには、次の段階として曲の時代背景を教えることの必要性を感じています。
そして、初心者、初級者であってもちょうど節目としてそういった音楽史の初歩の話をするのに最適な教材というものがあります。
例えば、ト長調のメヌエット(ぺツォルト作曲・伝 J.S.バッハ)。
多くのピアノ学習者が弾くことになるこの曲は、最初に触れるバロック期の音楽の教材として最適です。
それから、ブルグミュラー25の練習曲に入ったとき。
ロマン派の音楽の初歩を学ぶことができます。
以下の記事が参考になります↓
さらに、ソナチネアルバムに入ったとき。
フランス革命と前後して、ヨーロッパは大きく変化します。
ソナチネ(ソナタ)が多く作曲されたことには理由があります。↓
以下、4つの時代区分について順番にご説明します。
バロック期
バロック期の鍵盤楽器の特徴
バロック期は、およそ17世紀はじめから18世紀の半ばくらいまでの時代を指します。
この時代、まだピアノという楽器は生まれていませんでした。
この頃の鍵盤楽器にはいろいろな種類があり、ハープシコード、クラヴィコード、チェンバロ、オルガンなど。
現在のピアノと違って音量は弱く、強弱の幅もあまりありませんでした。
また音があまり伸びず、鳴らした音はすぐに減じて消えていきます。
ペダルなどの機能もありません。
そのため、装飾音符が多用され、音の単調さを補う効果を発揮していました。
これらの装飾音符は半ば即興的に演奏され、繰り返しのたびに弾き方が異なるのが普通でした。
バロック期の社会背景と作曲家たち
この時代の王侯貴族は絶対的な権力や財力を持っていました。
音楽のような芸術は宮廷の王族や貴族たちのものでした。
したがって、音楽家たちも王家や貴族に雇われ、専属の音楽家として楽曲を提供したり、子女に楽器の演奏を教えたりして生計を立てていました。
また、教会の楽士やオルガニストとして活躍した作曲家も多いです。
代表的な音楽家としては、
・G.Ph.テレマン (ドイツ)
・J.Ph.ラモー (フランス)
・G.F.ヘンデル (ドイツ)
・J.S.バッハ (ドイツ)
・D.スカルラッティ(イタリア)
などが有名ですが、ピアノ学習者にとってはバッハは頭ひとつ抜きん出て重要な人物。
J.S.バッハ
1685年ドイツ生まれ。
バッハ家は音楽の名門で、200年に渡り50人以上の音楽家を輩出してきました。
18才で協会のオルガニストになり、以後あちこちの教会の楽師長や音楽監督を務めながら後進の指導と作曲に邁進しました。
2人の奥さんとの間に生まれた息子たちも優れた音楽家です。
ピアノ学習者としては絶対に縁を切ることのできない偉大な存在。
特に「2声のインヴェンション」、「3声のシンフォニア」、2巻からなる「平均律曲集」は、学べば学ぶほど進化して襲いかかってくる強力な教典。
彼とは、ピアノを学んでいる限り、ずっとお付き合いしていくことになります。
バロック期の音楽の特徴
バロック期の音楽は、基本的に少人数の貴族たちがサロンで楽しむためのものでした。
特にバロック後期はロココの時代と少し重なるため、曲想は優美で華やか。
貴族的かつ装飾的で、質素な庶民の生活とは縁遠いものでした。
また、この時期の音楽の重要な特徴は「対位法」です。
例えば右手がメロディで左手が伴奏といった単純な形ではなく、2つ以上のメロディが高さや調性を変えながら複雑に干渉し合い、提携したり対立したりしながら曲を構成していく手法です。
生活に余裕のある貴族や王族などの特権階級だからこそ理解可能であった、インテリ(死語)向きの音楽であったとといえるでしょう。
このバロック期は18世紀半ばのバッハの死とともに終わり、古典期へと移り変わっていきます。
古典派
ピアノの発明
音楽史としては、バッハが没した1750年あたりでバロック期は終わって古典期に入ったと解釈されています。
ただ、その前から鍵盤楽器は大きく変化しつつありました。
ハープシコードなどの旧タイプの鍵盤楽器に変わり、1709年にイタリアのクリストフォリという鍵盤楽器製造者がピアノフォルテを開発。
これによって、鍵盤楽器は大きな進歩を遂げます。
弦を引っ掻いて音を出していたそれまでの鍵盤楽器と違い、ハンマーで弦を叩いて音を出す仕組みになったため、音量が増えただけでなく強弱がつけられるようになりました。
その後も様々に改良が試みられ、徐々に今のピアノの形に近づいて行きました。
市民階級の勃興
18世紀後半になると、ヨーロッパの社会には大きな変化が起こります。
貴族階級は徐々に没落して、一般庶民が力をつけていきます。
フランス革命(1789)はその象徴。
政治力と経済力を身に付けた市民階級の人々は、それまで高嶺の花だった音楽などの芸術を楽しむようになっていくのです。
ところで、新しく勃興した市民たちは、それまでの権力者たちに対して批判的でした。
当然、芸術も自分たちにふさわしいものを求めるように。
彼らが欲したのは、それまでにはなかったような、整った形式で作られた理解しやすい音楽でした。
ピアノ曲で説明するなら、右手は美しいメロディ、左手は伴奏。
ある程度型が決まっていて(形式)、強弱の起伏があり、きちんとしたまとまり感のある合理的な楽曲が求められるようになりました。
「ソナタ形式」発祥の土壌はここにあります。
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いつの世も、庶民というのは真面目なものなのですね。😁
古典期の三大作曲家
この時代に登場するのは、なんと言っても音楽室の常連さんたちです。
F.J.ハイドン (オーストリア)
この時代の音楽家には珍しく、お父さんは大工さん、お母さんは料理人。
庶民階級出身らしく、素朴で明るく、健康的な雰囲気の曲が多いイメージ。
「びっくりシンフォニー」で有名になったようなお茶目な面も。
W.A.モーツァルト(オーストリア)
お父さんはヴァイオリン奏者であり優れた作曲家でもあったレオポルド・モーツァルト、お姉さんは鍵盤楽器奏者のナンネル・モーツァルト。
ウィーンへの演奏旅行中に、のちにフランス王妃となるマリー・アントワネットに求婚したエピソードは有名です。
アントワネットに象徴される、華麗で退廃的なロココ時代を体現するような人生を送りましたが、「神童」らしく自由すぎる性格のためお金稼ぎが苦手。
極貧のうちに35才で没しました。
L.v.ベートーヴェン(ドイツ)
モーツァルトと反対に、大真面目なドイツの「楽聖」。
ペンを片手になぜかいつもこちらを睨んでいるイメージ。(笑)
17才の時にウィーンでモーツァルトに演奏を聴いてもらい、その才能を認められたものの、やはり自由すぎる彼にはあまり面倒を見てもらえず、ハイドンに弟子入りしたとされています。
30才を過ぎた頃から難聴に悩まされ、晩年はほとんど聞こえなくなりました。
ピアノ学習者としては、32曲のソナタがその圧倒的ボリューム感とともに常にその影を感じるイメージ。
彼とも、ピアノに触れている限り生涯かけてお付き合いしていくことになります。
ロマン派
楽器の発達
年代的には1800年代初頭から1900年代に入ったあたりまで。
ほぼ19世紀の音楽ということができるでしょう。
ピアノは改良を重ねて、現代のものと大きく変わらない機能を持つようになりました。
タッチによって音色を変えたり、人が歌うかのように、音をつなげて滑らかに演奏することができるようになってきたのです。
この時代に器楽曲は大きく発達しました。
また、鍵盤の数が増え、音域が広がったことで新しい様式の楽曲が次々と作られました。
即興曲、夜想曲、前奏曲、バラード、ロマンス、カプリチオ、‥その他にもたくさんの表題を持つ曲が作られました。
楽器が発達することにより、音で人の感情を表現できるようになったといえます。
楽譜には強弱記号の他に「愛らしく」「歌うように」「表情豊かに」「悲しげに」などの感情を表す発想標語が書き込まれるようになりました。
ロマン期の時代背景について
フランス革命後の19世紀のヨーロッパでは、音楽だけでなく文学や美術など他の芸術にも大きな動きがありました。
18世紀の主流であった整った様式、合理性、規則性などへの反抗の機運が高まって、より個性的なもの、独創的なものが尊ばれるようになりました。
なので、作曲家たちは自分の心の中にある様々な感情や自由な精神を表現することをためらわなくなりました。
芸術家たちにとって、とても幸せな時代だったといえるのではないでしょうか。
作曲家たち
この時代の作曲家はまさに百花繚乱の趣。
特にピアノと関係が深い有名な方々を、生まれた順に並べてみます。
F.シューベルト(オーストリア)
両親は学校経営者。
もともと王室の少年歌手の試験に合格するほど歌が上手でした。
歌心のある数々の美しい作品を残しましたが、非常に飽きっぽく、実は「未完成交響曲」は本当に途中で飽きてしまったのだとか。
残念ながら31才の若さで没しました。
F.F.ショパン(ポーランド)
お父さんはフランスからポーランドに移住して、ワルシャワでフランス語を教えていました。
ピアノという楽器を象徴する、「ピアノの詩人」ショパン。
もし彼がいなかったなら、ピアノはこれほど現代の私たちの心を捉える楽器として存在し得ただろうかと思います。
当時の芸術の最先端の街であるパリに拠点を置いて、多くの芸術家と交流しました。
もともと体が丈夫でなく、結核のために39才で没しました。
ショパンについては以下の記事で詳しく解説しています。↓
ショパンとはどんな作曲家?プロフィールと年表まとめ|ピアノの詩人の生涯とは
ショパンの有名ピアノ曲作品10選|曲の難易度と背景/特徴・演奏上の注意点を年代順に解説!
R.シューマン (ドイツ)
お父さんは出版業、お母さんは医師のお嬢さん。
奥さんのクララ・シューマンは天才ピアニストで、ブラームスとの三角関係のウワサが‥(汗)ただ、それを裏付ける証拠は何もないそうです。
練習のし過ぎで手を痛め、作曲に専念。
文学に造詣深く、有能な音楽評論家でもあり、ショパンやブラームスを世に送り出しました。
晩年は精神を病み、精神病院で他界しました。
F.リスト (ハンガリー)
生誕地はハンガリー王国でしたが、活動はドイツが中心。
お父さんはオーストリア系ハンガリー人、お母さんはオーストリア人。
なのにハンガリー語を話さず、母国語はドイツ語で、人生後半はフランス語を駆使。
色々と複雑な方です。
物凄いピアノの超絶技巧と超イケメンな容姿で特に女性に大人気で、彼がピアノを弾くとロックスターみたいに失神者が出たとか。
晩年には地味になり、宗教的な深みのある作品を遺しました。
E.H.グリーグ(ノルウェイ)
お父さんはイギリスの領事、お母さんはピアニスト。
当然お母さんがまずピアノを教えましたが、そのうちライプチヒで正式に音楽の勉強をするように。
卒業後ノルウェイに戻り、オスロで作曲家、指揮者、ピアニストとして活躍しました。
北欧の情緒豊かな名曲を数多く残し、特にピアノ協奏曲Op.16は有名です。
近・現代
「近・現代音楽」の定義は難しく、研究者によって意見は様々です。
なので、ここではざっくりと20世紀初頭から現在に至るまでを近・現代音楽としてご理解頂ければと思います。
多様さと無調性
20世紀の音楽の特徴は、とにかく多様であるということです。
19世紀までの音楽のように「これこれの様式」と一言で言い表すことは難しく、ヨーロッパ、ロシア、アメリカなど各地で様々な主義の音楽家が誕生しました。
ピアノという楽器についてだけでも多くの試みが成され、それまでとは全く違った響きを持った音楽の可能性が追求されました。
20世紀の音楽における、それまでとの最も大きな変化は「調性」が失われていったことです。
例えば、「現代音楽」と聞いたとき、あなたはどんな音楽を思い浮かべますか?
美しいメロディを伴った誰の耳にも心地よい音楽‥ではありませんよね。(笑)
マンガの擬音みたいな強烈な不協和音や7拍子などの独特の、あるいは不規則なリズム。
そうかと思うと眠くならない方が不思議なくらいに曖昧モコとした音の羅列だったり。
20世紀初頭の作曲家たちは、とにかく「調性」を古くさいものとしてとらえ、どうすれば独創的で新しい音楽を創造することができるか競っていたフシがあります。
これもまた、19世紀のロマン主義への半ば反抗的な回答だったのかもしれません。
近代ピアノ曲の作曲家たち
C.ドビュッシー(フランス)
19世紀末のヨーロッパ音楽界にあってはまさに革命的な人。
それまで禁止されていた「平行和音」を用いて、独特の音の世界を創り出しました。
ピアノ曲では文学的要素を音楽に取り入れた「版画」「子供の領分」「前奏曲集」などの曲集が有名。
収められているのは、『亜麻色の髪の乙女』『沈める寺』『雨の庭』『花火』‥どれも詩的で文学的なタイトルの曲たちです。
ちょっと進んだピアノ学習者の多くは、きっと彼のお世話になることでしょう。
M.ラヴェル(フランス)
お父さんはスイス出身の実業家で、ラヴェルが音楽の道に進むことを喜び、パリ音楽院へ送り出しました。
お母さんがスペイン系の人だったため、作品にスペインへの関心が見て取れることが多々あります。
(ピアノ組曲「鏡」第4曲『道化師の朝の歌』、管弦楽曲「スペイン狂詩曲」など)
色彩感豊かなオーケストレーションに定評があり、「ボレロ」など、芸術性とともに大衆性も併せ持った作品は多くの人の知るところ。
ガーシュインなどアメリカの作曲家とも交流があり、「ピアノ協奏曲ト長調」ではジャズの影響が見られます。
S.プロコフィエフ(ロシア〜ソビエト連邦)
帝政期のロシア、現在のウクライナ領で出生。
13才でサンクトペテルブルグにてリムスキー=コルサコフに管弦楽法を学びました。
ピアノを打楽器として扱う強烈なリズムと不協和音は、まさに当時の音楽の最前線。
ロシア革命後アメリカに亡命して西側諸国で活躍しましたが、1936年に社会主義のソビエトに帰国して活動を続けました。
ご本人自身優れたピアニストで、ピアノ曲ではソナタが有名。
どれも非常に難しく、私も苦労しました。😅
「4期」を意識した演奏を心がけてみては
超特急での説明でしたが、それぞれの時代区分がなんとなくおわかり頂けたでしょうか。
以下、弾き方のコツを超・簡潔にまとめてみます。
バロック期は、装飾音符が重要。信頼できる楽譜を使って学んで下さい。
対位法の全盛期なので、それぞれの声部を意識してテーマを浮き立たせるように演奏する必要があります。
弾きこなすのにやや工夫と努力が必要。
ぜひバッハさんを好きになって下さいね。
古典派の音楽、特にソナチネは、きちんとした規則性、合理性を重んじたこの時代の価値観を反映させると良いですね。
曲全体の構成を把握して、主題やそのほかのフレーズの性質を弾き分けることが求められるでしょう。
曲が規則的に作られているので比較的譜読みがしやすいのが特徴です。
ロマン派の音楽は、割と自由に弾いて良いかもですね。
先生方によって、あるいは弾く人によって色々な解釈が可能と思います。
最もピアノ曲が輝いていた時代なので、弾いていて一番楽しいのはこの頃の作品という方は多いです。
楽しんで弾いて下さい😄
近・現代は、実は個人的に私が好きな曲が多いんです。
生徒さんたちにも好きになってもらいたいと思うのですが、発表会の曲としてお渡しすると皆さんいまいち微妙な反応。
聴き映えのするカッコ良い曲が多いと思うのですが。
好きになれれば、レパートリーの幅が広がってお得です。
「5分で理解する、ピアノを弾くための音楽史」。
長文記事にお付き合い下さいましてありがとうございます。
お疲れ様でした!
この拙い文章が、あなたのピアノライフに少しでもお役に立てたなら最高に幸せです。
そして、この記事をお読み下さったあなたが、少しでも音楽史に興味・関心を持っていただけることを心から願っています。
お読み頂いてありがとうございます。
ポチッと応援して頂けると嬉しいです//↓