ショパンの有名ピアノ曲作品10選|曲の難易度と背景/特徴・演奏上の注意点を年代順に解説!
フレデリック・フランソワ・ショパンのピアノ曲は、いつの時代もピアノを演奏する多くの人の大切なレパートリーです。
彼が生涯に作曲したのは約240曲。
この記事では、それらの中から特に有名なものを10曲選び、年代順に並べて解説してみました。
ここにあげたのは、ショパンの作品の中でも特に有名で、ピアノを学ぶ人にとって憧れの人気曲ばかり。
難易度、曲の背景や特徴とともに演奏のコツも簡単に記してみたので、あなたのピアノライフの参考になさってみて下さいね。
目次
ショパンの曲の難易度設定
最初にはっきりさせねばなりませんが、ショパンのピアノ曲はどれも難しいです。
シューマンやチャイコフスキーと違い「子供のための〜」と銘打った曲が一曲もなく、たった7歳(!)で作った曲さえ初心者では弾けません。
それゆえショパンの曲の難易度を示そうとすると、多くが「上級者向き」となってしまい、結局難しさのレベルがよくわからないということに。
というわけで本ブログにおいては、難易度の高い曲のレベル分けを細分化し、以下のように設定しました。
- 「中上級」:ツェルニー40番程度
- 「上級A」:ツェルニー50番程度
- 「上級B」:ショパン練習曲
- 「最上級」:いわゆる「難曲」
各曲を、上記のように練習曲のレベルに当てはめて解説しています。
なお、ピアノ曲の難易度なるものは、単にテンポの速さや音の複雑さだけでは決まらず、曲の長さや演奏者の手の大きさにも関係します。
ひとつの参考として頂ければ幸いです。
ピアノ曲の難易度について解説した記事はこちらから↓
ピアノ曲の「難易度」とは?レベル設定と基準について解説!入門から最上級まで
ショパンの生涯と詳しい年表はこちらの記事からどうぞ↓
ショパンとはどんな作曲家?プロフィールと年表まとめ|ピアノの詩人の生涯とは
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ショパンの有名ピアノ曲/ワルシャワ出発まで
ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op.11
- 作曲年代:1830年(20歳)
- 難易度:最上級
- 背景:ウィーンへ出発する直前のワルシャワでの告別演奏会にて初演された
- 特徴:まだ無名に近かったショパンによる若き日の意欲作
ショパンは2曲の協奏曲を作曲しました。本作品は第1番とされていますが2番の後に作曲されたものです。
当時彼はまだ若干20歳で、ポーランドではそれなりに名の知れた存在ではありましたが、ヨーロッパ全体で見ればまだまだ無名。
従って、演奏会で自らの存在をアピールするためにもっぱらオーケストラと共演するという形を取る必要がありました。
この作品はショパンのそうした野心の垣間見える意欲作で、演奏レベルは最難関。
詩情あふれる美しい旋律と共に高度な演奏技術が散りばめられ、曲調はロマンチックで華麗そのもの。
若き天才ショパンの、前途洋洋たる未来を象徴するような輝かしさに満ちています。
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夜想曲 変ホ長調 Op.9-2
- 作曲年代:1831年
- 難易度:中上級A
- 背景:ジョン・フィールド(「夜想曲」の創始者とされるアイルランドの作曲家)からの影響
- 特徴:甘い旋律が装飾的に変奏されつつ繰り返されるシンプルな夜想曲
「ショパンのノクターン(夜想曲)」といえばこの曲を思い浮かべる日本人は多いもの。それほど我が国で愛されているノクターンです。
ピアノ学習者の憧れの曲であり、いつかはこの曲が弾けるようになりたいとピアノを習いはじめる人も珍しくありません。
ショパンの全作品中、レベル的には易しい部類。比較的取り組みやすいのも人気の秘密かもしれません。
ただ左手の跳躍は初級者にはやっかいですし、和音の移り変わりはかなり複雑。
耳で聴くほどには易しくはなく、また派手な曲でもないので、演奏者の「歌心」が試されます。
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12の練習曲 Op.10-12『革命』
- 作曲年代:1831年ごろ
- 難易度:上級A〜B
- 背景:「11月蜂起」の失敗によるワルシャワ陥落の報を聞いて悲憤に駆られ作曲したと伝わる
- 特徴:左手の高度なテクニックのための練習曲
ショパンの練習曲(エチュード)の中で、おそらく一、二を争う有名曲。
「11月蜂起」とは、実質的にロシアに支配されていたポーランドの下士官たちが1830年11月に起こしたクーデターのことを指します。
革命は成功したかに見えましたが、すぐにロシアの反撃に遭い、翌年ワルシャワは攻め落とされました。
それを聞いて嘆き悲しんだショパンが故郷を想い、戦争に参加するよりも音楽で戦おうと決意して作曲したと伝わります。
うなりをあげて上下する左手の奔流の上に、右手によるドラマチックで悲痛な旋律が重なり、短い曲に悲劇性を与えています。
暗く激しいハ短調の曲ですが、最後にハ長調に転調して終わっているのが興味深いところ。
革命は失敗したけれど、祖国の独立への希望は捨てていないと信じているかのようで、ぜひこの最後の和音を味わって響かせてみては。
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ショパンの有名ピアノ曲/パリ時代
12の練習曲 Op.10-3『別れの曲』
- 作曲年代:1832年ごろ
- 難易度:上級A〜B
- 背景:リストに献呈された12の練習曲Op.10の第3曲
- 特徴:美しい主旋律と中間部の和音の跳躍による劇的な対比が印象的な練習曲
ショパンの全作品中、最も有名と思われる名曲のうちのひとつです。
映画やドラマなどでも多く使われ、ピアノに興味のない人でも必ずどこかで一度は耳にしているはず。
「練習曲」らしくないゆっくりとしたホ長調のメロディはどこまでも甘く切なく、作曲者本人が「これ以上美しいメロディを書いたことがない」と語ったと伝わっています。
日本では1934年製作のショパンを描写したドイツ映画「Abschiedswalzer」の邦題「別れの曲」がそのまま通称になりました。
欧米では「Tristesse(悲しみ)」の愛称で知られています。
メロディ部分はショパンの作品の中では易しい部類ですが、中間部はそうはいきません。
特に手が小さい人は(管理人含む)、高速での6度の和音跳躍が押さえきれずに難儀するはず。
大人になってからこの曲に挑戦する方は、怪我防止のためのストレッチを十分に行うことをおすすめします。
ワルツ変ホ長調Op.18『華麗なる大円舞曲』
- 作曲編代:1833年
- 難易度:中上級B
- 背景:パリ社交界で活躍した時期、意図的に華麗な曲調で書かれた作品
- 特徴:実用性を意識したサロン向けワルツ。華々しく演奏効果が高い割に難易度は低め
ショパンの全作品中、ピアノ発表会で取り上げられる頻度が最も高い(と思われる)作品。
「華麗なる大円舞曲」という、いかにもそれらしいタイトルにふさわしく、曲調はとにかく派手派手しく華やか。
しかもショパンの作品としてはそれほど難しくないという、ピアノ学習者にとってまことにありがたい曲。
パリ社交界のアイドルとしてもてはやされた時期のショパンによる、「これでどうだい!」とでも言わんばかりの華々しさに満ちています。
なおショパン作品中ではそれほど難しくないとは書きましたが、高速での同音連打が続きますしそこそこ長いのでやはり中上級者以上向き。
たまに勘違いして初〜中級の生徒さんに弾かせるピアノの先生もいらっしゃいますが、舞台上で難儀なことになるケースを見かけるのでおすすめできません。
即興曲第4番 嬰ハ短調 遺作 Op.66『幻想即興曲』
- 作曲年代:1834年
- 難易度:中上級B
- 背景:最初に作曲された即興曲だが生前に出版されず、死後に遺言に背いて出版された
- 特徴:最も有名な即興曲。繊細で情熱的な速いパッセージと中間部の甘い旋律との対比が印象的
この曲もまた知らない人は少ないであろう超有名曲。
ピアノ愛好者の憧れの名曲であり、夜想曲Op.9-2を弾けるようになった学習者の次の目標となることも多いです。
印象的な序奏のあと、左手の分散和音上で右手が軽やかに舞い、やがて切迫していって高音から低音へとなだれおちていく様子は聴く人の心をとらえずにはおきません。
今どきは小学生で弾く子もいますが、難しい箇所があちこちにあり、中級者が無理に弾くより実力をつけて挑戦するのがおすすめです。
なおこの曲は生前出版されず、ショパンが遺言で「焼き捨てるように」と指示した作品群のひとつでした。
友人の校訂者フォンタナが遺言に背いて勝手に出版してしまったのですが、「こんないい曲を世に出さないなんてとんでもない!」とでも思ったのでしょうか。
ショパン本人はご不満かもしれませんが、世界中のショパン愛好家の「Good Job!」というセリフが聞こえるようです。
ショパンの有名ピアノ曲/円熟期
24の前奏曲Op.28-15『雨だれ』
- 作曲年代:1838-39年
- 難易度:中上級A
- 背景:ジョルジュ・サンドとともにマヨルカ島に滞在した際、サンドの身に不幸が起こる悪夢をみて作曲したと伝わる
- 特徴:24の前奏曲の第15番。物憂げで穏やかな主題部分と荘厳な中間部との対比が印象的
「24の前奏曲」中、最も有名。全曲を通して滴り落ちるように響くA♭(G♯)が、降りしきる雨だれの音を思わせる佳品です。
マヨルカ島に滞在していた際、降り止まない雨と、幻影を見たショパン自身の涙を重ね合わせて書かれたとされています。
ショパンの全作品中5本の指に入るくらいに平易な作品ですが、やや地味なのであまり発表会などで取り上げられることはありません。
実際この長い曲を、聴く人を退屈させずに演奏することができればかなりの腕前といえるでしょう。
ピアノソナタ第2番 変ロ短調 Op.35 第3楽章『葬送行進曲』
- 作曲年代:1837年ごろ
- 難易度:上級A
- 背景:ソナタ第2番は1939年作曲だが、この第3楽章だけは先に作曲されていた
- 特徴:重苦しい主題部はあまりに有名。対して甘く切ない中間部の美しさは特筆もの
「葬送行進曲」として世界中に認知されている曲。
ソナタ第2番はサンドの別荘ノアンで作曲されましたが、この曲だけは2年ほど前の1937年に作曲されています。
詳しい背景などは伝わっていませんが、1837年はマリア・ヴォジンスキ伯爵令嬢との婚約が破談になったころ。
この曲のあまりに重苦しい悲劇性は、もしやマリアとの破談が関係しているのかも‥などと想像がふくらみます。
そして、中間部のなんとも甘美なこと。
まるで、マリアとの楽しい日々を懐かしむようにどこまでも甘く美しく、慈しむような優しさに満ちています。
ピアノソナタ第2番は難曲ですが、この「葬送行進曲」だけは比較的弾きやすいはず。
悲しいことがあった日に、慰めが欲しい時に、人知れず演奏してみるのもまた人生の味わいの一コマです。
ポロネーズ Op.53『英雄』
- 作曲年代:1842年
- 難易度:最上級
- 背景:心身充実した時期にサンドのノアンの別荘で書かれた作品
- 特徴:ショパンの愛国心が強く表現された壮大華麗なポロネーズ
ショパンの全作品中もっとも力強く愛国的な作品。
「ポロネーズ」とはもともとフランス語で「ポーランド風」の意味で、貴族的で優雅な舞曲として古くからポーランドに伝わるものです。↓
ポーランドはショパンのふるさと|どんな国?特徴と歴史・日本との関係をピアノ講師目線で解説!
ショパンはその素材をもとに、敵国ロシアに対峙する祖国の誇りと独立への希望を込めて、輝かしい芸術作品としてのポロネーズを創り上げました。
繰り返される力強く活気に満ちた主題、勢いよく駆け上がるような両手スケール、ファンファーレが鳴り響くかのような中間部、華麗そのものの終結部などなど、まるでポーランドを解放する「英雄」の出現を確信するかのような、明るい希望と威厳に満ちた作品です。
ショパンを愛するピアニストの定番曲であり、上級を自認するピアノ愛好家、学習者にとっての最後の難関曲。
手の小さい演奏者(=管理人)にとってはなかなかツラい部分が多いため、ケガが怖くて未だに手出しできておりません(泣)。
いつかはこの曲を、と思う方は、あまり歳をとりすぎないうちに挑戦された方が良いかもしれませんσ(^_^;)
ワルツOp.64-1『小犬のワルツ』
- 作曲年代:1846-47年
- 難易度:中上級A
- 背景:生前に出版された最後の作品のひとつ
- 特徴:サンドの飼い犬が駆け回るのを描写したと伝わるテンポの速いワルツ
ある程度進んだピアノ学習者が必ず習う曲であり、ショパンの最も有名なワルツのひとつです。
サンドとの関係が破局に向かう中、ノアンでの最後の滞在となった夏に作曲されました。
サンドの飼い犬が自分の尻尾を追ってくるくる駆け回る様子を描写してと彼女に頼まれ、即興的に作曲したと伝わります。
この年以降ショパンがノアンに行くことはなく、サンドとの関係が終了してからのショパンは曲を書くことができなくなりました。
ショパン晩年の最後の傑作がこのOp.64の3曲といえるでしょう。
「小犬のワルツ」は、可愛らしくて軽やか、ショパンらしく上品で優雅な作品。
それほど難しくなく短いので、ピアノ発表会でもよく演奏されます。
やたらと速く弾くのではなく、この曲の持つ優雅さやオシャレ感が出せると素敵ですね。
まとめ
ショパンの全作品中、特に有名な10曲を選び、難易度判定と曲の背景、演奏する時に注意すると良いと思われる点などを簡単に解説しました。
これら10曲を演奏難易度の低い順に並べてみるとだいたい以下のようになると思われます。
- 前奏曲第15番『雨だれ』
- 『小犬のワルツ』
- 夜想曲Op.9-2
- 『華麗なる大円舞曲』
- 『葬送行進曲』
- 『幻想即興曲』
- 練習曲Op.10-12『革命』
- 練習曲Op.10-3『別れの曲』
- ポロネーズ『英雄』
- ピアノ協奏曲第1番
こうしてみると、レベルに差はあるもののどれも挑戦しがいのある曲ばかり。
管理人もまた本記事を書くことで、改めてショパンという作曲家の偉大さがわかった気がしています。
ショパンへの旅は、全てのピアニスト・ピアノ愛好家が通る道。
あなたのピアノの腕前がお気に入りの曲に手が届くようになったなら、ぜひ挑戦してみて下さいね(^○^)
健闘を祈っています!
ショパンとはどんな作曲家?プロフィールと年表まとめ|ピアノの詩人の生涯とは