「スティリエンヌ」を解説!題名の意味と弾き方のコツ|ブルグミュラー25の中で難易度は?
「スティリエンヌ」は、ブルグミュラー(Brugmüller, 1806-1874)「25の練習曲」の真ん中あたり、14番目の曲。
華やかで聴き映えのする曲想から、ピアノ発表会でも良く演奏されます。
この曲の題名「スティリエンヌ」は、以前は「スティリアの女」と訳されていました。
が、近年は「シュタイヤー舞曲」など、舞曲であることを強調した訳を採用する版もあり、変化してきています。
本記事は、「ブルグミュラー25の練習曲」の中でも難しいとされるこの「スティリエンヌ」を分析し、難易度や題名の意味、演奏のコツを解説して参ります。
ご参考になれば幸いです(^○^)
目次
「スティリエンヌ」の難易度
難易度比較
初級〜初中級。
「お人形の夢と目覚め」よりは難しく、「貴婦人の乗馬」と同レベルです。
ブルグミュラー25練習曲の中では「つばめ」などとともに一番難しいレベルでしょう。
一方、音の並びが素直なので、邦人作曲家の作品と比べると譜読み・演奏ともにそれほど難解ではありません。
途中で拍感の変わる「チューリップのラインダンス」などよりは低年齢の子供にとって理解しやすいです。
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発表会で演奏するなら、すでにブルグミュラー25の練習曲に入っていれば安全。
いわゆる「バイエル」を基準とするなら、中ごろでは厳しく、終盤に入っていればチャレンジできます。
小学校低学年で弾ければ順調である一方、高学年の生徒が弾いてもおかしくないレベルの要素を持っています。
要求される技術
- 左手の伴奏形態に合わせた4種類のワルツの弾き分け
- 装飾音
- 細かいアーティキュレーション(スラー、スタッカート、アクセントなど)の指示
- オクターブを超える跳躍
「スティリエンヌ」は、4種類のワルツを思わせる舞曲から成り立っています。
どれも同じような印象にならないよう、表現に工夫が必要。左手の伴奏に合わせて右手も弾き方を変える必要があります。
装飾音符はこの曲のキモ。踊り手のアクセサリーのように優雅に弾きたいものです。
スラーとスタッカートの指示がひんぱんにありますし、ワルツらしく自然なアクセントも必要です。
すべてを意識しつつも忙しい印象にならないようにしたいもの。
「スティリエンヌ」において、オクターブを超える跳躍は聴かせどころ。
はずすと結構目立ちますので、大事故にならないようにしっかりと練習しておきましょう。(´∀`)
「スティリエンヌ」の概要
- 曲名:スティリエンヌ(La Styrienne)
- 作曲者:ブルグミュラー(Brugmüller, 1806-1874)
- 収録:25の練習曲(25 Études faciles Op.100)
- 作品スタイル:ロマン派小品・練習曲
- 調性:ト長調
- 演奏時間:約2分
「スティリエンヌ」は、「ブルグミュラー25の練習曲」として知られるエチュード(練習曲)集に収録されています。
「ブルグミュラー25の練習曲」は、練習曲とはいってもロマン派のスタイルに沿った性格的なピアノ小品集。
チェルニーに代表される指の鍛錬に重きを置いたものとは違い、一曲一曲に標題が付けられ、ピアノの初心者がロマン派のスタイルを学ぶための優れた教材となっています。
14番目に配置された「スティリエンヌ」は、4小節のイントロと、4種類のワルツ風の舞曲によって構成されています。
曲調は、ワルツらしく明るく優雅で華やか。
軽やかさとともに威勢の良さを感じさせる部分もあり、ブルグミュラー25練習曲の中でも発表会で好んで演奏される曲のひとつです。
約2分という短い演奏時間の中で、それぞれのワルツの特徴を感じながら演奏することが求められています。
「ブルグミュラー25の練習曲」は、各社からたくさんの種類の楽譜が出版されています。
イチオシは東音企画。譜めくり不要なのに譜面が大きく、2種類のスラーなどの工夫も演奏の助けになるはず。
全音楽譜出版社のこちらのタイプは、譜めくりが必要になりますが小学生にもわかる解説や、イメージの湧く写真や絵画を配置するなど親切設計。
音楽之友社のNew Editionは春畑セロリ氏の解説が素晴らしいです。
「スティリエンヌ」の意味
「スティリエンヌ」とは、「シュタイヤー地方の」という意味。
オーストリア、アルプス地方の地名であるシュタイヤーマルク(シュタイアーマルク)州のことをフランス語で表したものです。
その地に伝わる「レントラー」という3拍子の古い舞曲がワルツの前身であるとされ、「スティリエンヌ」もその意図で作曲されたのではないかと考えられます。
ところでこの曲、以前は「スティリアの女」という題名が定着していました。
最近の出版社の傾向として、原題をなるべく意訳せずに忠実に訳す方向へと変化してきているようです。
「スティリエンヌ」を「シュタイヤー舞曲」と訳した版もあり、発表会のプログラムに「シュタイヤー舞曲」と書かれることも増えてきました。
とはいえ、今でも多くの版が「スティリアの女」を採用しています。
もともと原題の La Styrienne は、シュタイヤーマルクを指すフランス語のStyrieに、接尾語の ienneをつけたもの。
冠詞の La も女性を表すので、「スティリアの女」は決して間違った訳というわけでもありません。
個人的に、せっかくのロマンチックな標題を単に「シュタイヤー舞曲」としてしまうのは、ちょっと味気ないと感じています。♪( ´▽`)
「スティリエンヌ」の弾き方解説
「スティリエンヌ」は、イントロに続く4つのワルツ風舞曲によって構成されています。
それぞれのワルツの雰囲気をイメージして、違いを表現して下さい。
本記事は「IMSLP ペトルッチ楽譜ライブラリー」のパブリック・ドメイン楽譜を使用しています。
序奏〜ワルツ①
ト長調・Mouvement de valse(ワルツの速さで)
4小節のイントロの後、12小節目までが第1ワルツ。
イントロは、この時代の音楽としてはやや意表を突く属七での開始。
装飾音とアクセントを効かせた「レ」音の上下に半音ずつ下がりながらの和音進行が行われます。
いきなりオシャレなんですよねえ。ちょっと粋な感じもして、いかにも大人の女性な雰囲気を感じさせます。
ワルツの始まりは pでgrazioso(優雅に・優美に)。英語のgraceと語源は同じで、上品かつ典雅なイメージ。
左手はスタッカートのつかない8分音符。一方右手はスタッカート付きの上行音(レミファ)の後スラーで次の小節まで音を繋げます。
また短いスパンでクレッシェンド(crescendo・だんだん強く)とディクレッシェンド(decrescendo・だんだん弱く)が繰り返されます。
このあたりの指示が細かいですが演奏にメリハリで出ますのでぜひ守りましょう。
装飾音は目立ちすぎず、かといって付けられた音と一緒にならないように。
ワルツ②
ホ短調
平行調のホ短調に転調した、12小節の途中から20小節までが第2ワルツです。
強弱記号はmf。この第2ワルツは少し力強く、重さを感じさせるように弾いてみて下さい。
左手の伴奏の形が変わりました。
13小節目の2、3拍目の左手は8分音符ではなく4分音符です。
また14、15小節では下の音を3拍保持しなければなりません。
14小節目の右手の装飾音は、拍の頭に合わせるのでなく前に出します。
アクセントの付いた「ミ」の前に、「飾り」を強調するようにシャラリと入れるイメージ。
たくさんつけられたアクセサリーが音を立てるように、あるいはタンバリンが鳴ったかのような音をイメージしてみては。
20小節目、次のワルツに備えるべくテンポと音量を落とします。
ワルツ③
ト長調・in tempo(a tempo)もとの速さで
21〜28小節が第3ワルツ。再びト長調に戻りました。
左手は24小節を除き4分音符。
右手は相変わらず装飾的ですが、dolce(やわらかく・甘く)の指示があるので頑張りすぎないようにしましょう。
この第3ワルツはスラーやスタッカートの指示が少なく、一息つける部分。
23小節目の右手の動きにはアルプスの香りがほのかに漂いますね。
少しのどかなイメージで弾いて、他のワルツとの差を感じても良いと思います。
ワルツ④
ハ長調・deciso(はっきりと・決然と)
「スティリエンヌ」最大の聴かせどころであり難所。
29、31小節では、右手は高音の「レ」と「ソ」の音をあらかじめ目視しておき、狙いを定めて思い切って跳躍します。
左手の伴奏もオクターブを超えており、演奏はこのレベルの曲としてはなかなか困難。
ただ、このように跳躍する場面では、音と音の間に多少「間」が空いても違和感少ないのでご安心を。
力強くエネルギッシュな様子を表現すべく、堂々と演奏して下さい。
序奏の再現または省略〜Fine
ハ長調のパートが終わった後、版によって2つの演奏方法があります。
- D.C.(ダ・カーポ)で冒頭に戻ってイントロを再現
- イントロを省略して第1ワルツに戻る
現在ではパブリックドメインをはじめ、多くの楽譜で冒頭の序奏に戻る方式になっています。
全音楽譜出版社の「新こどものブルグミュラー25の練習曲」ではイントロを再現しない編集に。
また音楽之友社のNewEditionでは、春畑セロリ先生がどちらのやり方が良いか考えさせる提案をしています。
好みによりどちらを採用しても良いと思いますが、個人的にはイントロに戻る方が好きで、「新こどものブルグミュラー」を使う生徒にもそれを勧めています。
まとめ
ブルグミュラー25の練習曲第14番、「スティリエンヌ」についてお伝えしました。
ところで、実は私も「スティリアの女」というタイトルで習ったせいもあり、今回もどちらを採用するかで悩みました。
「スティリアの女」。
なんとも響きが大人っぽく、想像を掻き立てるタイトルではあります。特に「女」の部分が。♪(´ε` )
残念ながら当時のピアノの先生には曲の背景について詳しく解説してくれるような土壌はなく、自分であれこれイメージしたものです。
何かちょっと際どいカンジのドレスを着て、男性を手玉にとっているような女性を妄想したりしていました。(カルメンとごっちゃになっていたようです)σ(^_^;)
今回色々調べていくうちに、危険な香りのするお姉さまとも「シュタイヤー舞曲」のアルプスの少女ハイジっぽさとも違う、オシャレな若い娘さんの姿がイメージされてきました。
何しろブルグミュラーが活躍した当時のパリは、世界でも最先端の憧れの街。
レントラーの素朴さにワルツの華やかさをプラスした、軽快な舞曲として演奏するのが一番と感じています。
優雅で華やか、ちょっと小粋。都会的なパリと、どこかアルプスの香りのする大らかさが同居している。
「スティリエンヌ」はそんな曲です。
小学生だけに独占させておくのはもったいない!
様々な年代のピアノ学習者に楽しんでいただけたらと願っています。
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