「おわりに」と「はじまり」-古いピアノとの別れ|ひとつの旅の終わりと新しい旅のはじまり
2023年12月、長年愛用してきたグランドピアノを手放しました。
調律しても音の狂いが目立ち始め、オーバーホールするか買い換えるか悩んだ末買い換える決意をしたからです。
我が友「YAMAHAグランドピアノ C3B 1970年代製」との日々|45年を共有した「相棒」のこと
45年を共に過ごしたピアノは私にとってもはやただの楽器ではなく、相棒のような存在になっていました。
この古いピアノとの別れの日のことを、備忘録として残しておこうと思います。
目次
愛用してきたピアノのこと
愛用していたピアノはヤマハC3B。古い機種で、今はもう制作されていません。
家庭用ですが、一応コンサートホールでも使えるような華のある音色が特徴でした。
高音部に透明感があり、全体的な響きはどことなくエレガント。とても45年経っていたようには聴こえなかったハズです。
それでいてかなりタフで、ロクな手入れもしなかったにもかかわらず常にコンディションは良好だったっけ。
弦が切れた記憶もなく、手のかからない子でしたね。
最後に弾いた曲「おわりに」
この愛器C3Bで最後に弾く曲は、「別れ」にふさわしいものにしようと思っていました。
せっかくYouTubeもやっていることですし、演奏を映像にしておきたいとも。
とはいえショパンの「別れの曲」は腱鞘炎持ちにはキビシイσ(^_^;)それにあまり悲しい曲もちょっと‥
ふと、以前野平一郎氏の『音の旅』より「はじまり」を録画していたことを思い出し、同じ曲集の終曲「おわりに」にしようと思い立ちました。
2ページと短いですが、透明感のある旋律が繰り返されるとても美しい曲です。
「はじまり」とテーマを共有していて、それでいて終曲にふさわしい切なさを感じさせる名曲。
優雅に礼をして去っていくかのような終わり方が、この子との別れにぴったりだと思いました。
別れの日に
搬出の前日に家族とシャンパーニュで乾杯。「お別れ会」ですかね♪( ´▽`)
翌朝早く、トラックが迎えに来ました。
あれよあれよという間に脚が外されぐるぐる巻きにされ‥かと思っていたら実際は違いました。σ(^_^;)
長年同じ場所に立っていたC3Bの脚は、インシュレーターにべったりと張り付いて簡単に持ち上がらなくなっていたのです。
屈強な作業員の方々で「せーの」と横に揺すり、「バキッ」と音がして何とか剥がすことができました。
何だかこの子が「ここから動きたくない」と言っているかのようで、切なかったですね‥
さてそれからは本当にあっという間。
気がついたらもう家の外へと運び出されていて、慌ててあとを追いかけました。早っっ!
大きなトラックは家の前には停車できず、100mばかり離れたところで積み込みの作業に入っていました。
ぐるぐる巻きにされたC3Bは重機のような装置によってトラックの荷台に乗せられ、奥へと運ばれ見えなくなっていきました。
作業を終えた作業員さんたちは礼儀正しく挨拶をして下さり、私も深々とお辞儀をしました。「よろしくお願いします」と念じながら。
やがてトラックはゆっくりと発進。私は走り出したトラックの荷台に向かって手を振りました。
そして、角を曲がって見えなくなるまでしっかりと見届けました。名残惜しいものです‥
家に戻ると、リビングがやけに広く感じられます。
床にはあの子が立っていた場所の跡がくっきりと残っていました。
思い出の鍵
ふと気づくと、C3Bの鍵を業者さんに渡すのを忘れていました。特に必要とも言われませんでしたし‥
今時はあまり鍵はかけないのかな?確かに私も鍵をかけたことはありませんでした。
もう2度と使われることのないこの鍵ですが、捨てることなくずっと持っていることにしました。
あの子と一緒に過ごした45年の年月を象徴する一本の鍵。私の大切な宝物です( ´ ▽ ` )
私とC3Bとの旅は終わりました。
そして、ひとつの旅の終わりは新しい旅のはじまり。
どうか元気で。
君の新しい旅が幸福なものであることを、心から願っているよ。
お読み下さってありがとうございます。(*´∀`*)